札幌地方裁判所 平成元年(行ウ)6号 判決 1991年2月15日
控訴人
塚本産業株式会社(X)
右代表者代表取締役
古谷通
右訴訟代理人弁護士
高田照市
被控訴人
札幌市中央区長 松崎誠(Y)
右指定代理人
中村哲
同
沖口靖五
同
林俊豪
同
前田輝夫
同
児玉悌二
同
吉田武好
同
浅野清美
同
橋本暢之
同
渡辺多加志
同
佐藤正実
同
城戸崎泰宏
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
一 控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和六三年七月二九日付で控訴人に対して行った原判決添付別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)に関する昭和六三年度特別土地保有税の納税義務の免除認定をしない旨の決定を取り消す。被控訴人が平成元年八月三日付で控訴人に対して行った本件土地に関する平成元年度特別土地保有税の納税義務の免除認定をしない旨の決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
二 本件事案の概要は、次のとおり訂正、削除、付加するほかは、原判決事実及び理由「第二 事案の概要」に記載のとおりであり、証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目表一行目の括弧書部分を「(後掲焼損建物面積部分、本件土地)」と、同四枚目表六行目の「本件土地の」から同裏四行目の末尾までを次のとおり、それぞれ改める。
「みなみ商事株式会社(以下「みなみ商事」という。)は、本件土地の前所有者である武智哲夫から本件土地を賃借し、昭和三四年一二月一三日本件土地上に木造三階建のテナントビル(以下「本件建物」という。)を建築所有(昭和三五年二月三日所有権保存登記)して本件土地を占有使用していたところ、本件建物は昭和五九年二月二一日火災により焼損し、焼失を免れた一部が残存する状態で現在に至っている。みなみ商事は、右火災後も存続する本件土地に対する借地権を保全するとともに、本件土地は札幌市すすきの飲食店街の中心に所在し、同地域は札幌市から防火地域に指定され堅固な建物の建築しか認められないことから、本件土地上に堅固な建物を建築するため、昭和五九年四月一七日申請土地のうち二番八の土地について武智哲夫を債務者として処分禁止の仮処分決定を得、次いで同年一一月同人を被申立人として札幌地方裁判所に本件土地についての借地契約を堅固な建物所有目的に変更することを求めて借地条件変更の申立てをし、更に昭和六〇年三月七日申請土地のうち一番一六の土地についても武智哲夫を債務者として処分禁止の仮処分決定を得た。したがって、控訴人が本件土地を取得した後の昭和六三年及び同六四年の各一月一日時点において、控訴人が本件土地に対して行使することのできる権利は賃料請求権のみであった。」
2 同五枚目表二行目の「現在も」から九行目の「確実なのである。」までを次のとおり改める。
「控訴人が本件土地を取得した時点あるいはその後の昭和六三年及び昭和六四年の各一月一日時点において、本件土地には借地人としてみなみ商事が存在し、みなみ商事は本件土地を現に占有して使用するに止まらず、もっと積極的に本件土地に堅固な建物を建築し、本件土地を継続して使用するための一連の法的手段を講じていた。それゆえ控訴人が本件土地を取得しても、控訴人が本件土地を自ら利用することは全く不可能な状態にあった。そして、このような状態にある本件土地が投機の対象として不適格であること、そしてその一方において、本件土地はすでにみなみ商事に提供され、みなみ商事が本件土地を占有し実際に利用していることは客観的な事実として認められる。」
3 同五枚目裏七行目の「地変」を削り、一三行目の「利用」の前に「水準の」を加え、同六枚目表九行目の「当該土地の」から一一行目の末尾までを「右基準に適合する建物又は構築物が基準日に存在しない場合においては、たとえ所有者が投機目的で当該土地を所有するものでないとしても、また、当該土地に借地権等が設定されているとしても、それらの事情を斟酌される余地はなく、免除の対象とはならないと解すべきである。これを本件土地についてみると、本件基準日においては、焼損した本件建物の残骸が放置されているのみの状態であり、前記基準に適合する建物又は構築物が存在しなかったのであるから、たとえ前記二の1前段の事実があったとしても、それのみでは法六〇三条の二第一項一号に該当するものとはいえない。」と改める。
4 同六枚目表末行及び同裏一行目から二行目にかけての各「うけよう」を「受けよう」と改め、一〇行目の「場合や」の次に「、」を加え、一一行目の「ようなとき」を「ときのように」と改め、同七枚目表一〇行目の「原告は、」の次に「前記のとおり」を加える。
三 当裁判所も、控訴人の本訴各請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂証、削除するほかは、原判決事実及び理由「第四 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決七枚目裏九行目の「第一〇号証の二」の次に、「、第一五号証、第一八ないし第二〇号証、第二四号証」を、一一行目の「本件土地」の次に「及びその周辺の土地合計約三九七平方メートル」を、「借りうけ」の次に「、昭和三四年一二月一三日」をそれぞれ加え、一二行目の「建物(第一みなみビル)」を「本件建物」と改め、同八枚目表二行目の「昭和」の前に「その間の」を加える。
2 同八枚目表五行目の「をし、」から末尾までを次のとおり改める。
「をした。これに対し武智哲夫は、昭和六〇年札幌地方裁判所にみなみ商事を被告として地上の焼失残骸を収去して本件土地の明渡を求める訴訟を提起し、同訴訟ではみなみ商事の借地権の存否をめぐって争われ、平成元年には本件土地の所有権を取得した控訴人が武智哲夫及びみなみ商事を被告として右訴訟に参加した結果、同年七月一八日同裁判所において、みなみ商事が借地権を有すること等を理由として武智哲夫及び控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決が言い渡された。その後、平成二年一二月二〇日右訴訟の控訴審である札幌高等裁判所において当事者全員の間に裁判上の和解が成立し、同和解において、控訴人はみなみ商事に対しみなみ商事が本件土地を含む前記土地について借地権を有することを確認した上、控訴人とみなみ商事とは、控訴人所有の本件土地中二三八・〇四平方メートルとみなみ商事の有する右借地権とを等価として交換することを合意し、これにより前記各紛争はすべて解決された。」
3 同八枚目表九行目の「相当な利用がなされている」を「相当程度の水準の利用がなされ、最終的な需要に供されていると認められるような」と、一〇行目の「課す」を「課する」と、同裏二行目の「客観的、外形的に」を「それに該当することが明確なものに限り、かつ、客観的、外形的な基準により」と、四行目の「まってとくに」を「待って特に」と、六行目及び一〇行目の各「建物」を「建物等」と、六行目の「むしろ」から七行目の「考慮し、」までを「右のような観点から」と、末行の「うけた」を「受けた」と、「一号」を「各号」とそれぞれ改める。
4 同九枚目表二行目の「甲第一〇号証の一」の次に「、第二五、二六号証、乙第六号証の一ないし五及び弁論の全趣旨」を加え、同行から三行目にかけての「第一みなみビル」を「本件建物」と、六行目の「あること」から七行目の「あるから」までを「あったが」と、八行目の「本件土地」から同裏一行目の「同号の」までを「右状態に変更の加えられることのなかったことが認められる。そうすると、右各時点において、本件土地に法六〇三条の二第一項一号及び施行令五四条の四七第一項各号に定める建物又は構築物が現に存在しなかったことは明らかであるから、本件土地が法六〇三条の二第一項一号の」と、二行目の「する」を「いう」とそれぞれ改める。
5 同一〇枚目表六行目の「建物」の前に「適法な」を加え、末行の「その他の」を「その他」と、同裏三行目及び四行目から五行目にかけての各「一〇八条一四の二」を「一〇八条の一四の二」と、四行目の「同」を「法六〇三条の二」とそれぞれ改め、五行目の「法六〇五条の二」の次に「(条例一〇八条の一四の六)」を加え、八行目の「書類の添付」を「書類を添付した減免申請書の提出しと改め、一三行目の「程度の」の次に「水準の」を、同一一枚目表八行目の「甲第一二号証」の次に「、乙第八号証及び弁諭の全趣旨」を、「本件否認処分(一)」の次に「、(二)」をそれぞれ加え、同行の「申請の」を「各」と改め、一〇行目の「右」の次に「各」を加え、一二行目の「し、」から末行の「ほかない」までを、同裏九行目の「原告主張のような事情があって、」をそれぞれ削る。
四 よって、本件控訴を失当として棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 仲江利政 裁判官 河合治夫 高野伸)
《参考》札幌地裁平成三年二月一五日判決(平成元年(行ウ)第六号・同二年(行ウ)第一三号)
【主文】
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、平成元年行ウ第六号及び平成二年行ウ第一三号事件とも原告の負担とする。
【事実及び理由】
第一 請求
(平成元年行ウ第六号事件)
被告が昭和六三年七月二九日付で原告に対し行った別紙物件目録記載の土地に関する昭和六三年度特別土地保有税の納税義務の免除認定をしない旨の決定を取り消す。
(平成二年行ウ第一三号事件)
被告が平成元年八月三日付で原告に対し行った別紙物件目録記載の土地に関する平成元年度特別土地保有税の納税義務の免除認定をしない旨の決定を取り消す。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
(平成元年行ウ第六号事件)
1 原告は、昭和六二年五月二八日、訴外武智哲夫から別紙物件目録一ないし五記載の各土地(以下、「申請土地」という。)を買いうけて、その所有権を取得した。
2 原告は、右所有権取得により、昭和六三年一月一日の時点において、以前から所有していた土地を含めて、札幌市中央区の区域内において合計二八〇六・四一平方メートルの土地を所有するに至ったため、地方税法(以下、「法」という。)五八五条一項、五九五条一項、札幌市税条例(以下、「条例」という。)一〇八条の二第一項の規定により、昭和六三年度の特別土地保有税の納税義務者となった。
3 原告は、同年五月三〇日、被告に対し、昭和六三年度の特別土地保有税の申告をするとともに、翌三一日、法六〇三条の二第一項、条例一〇八条の一四の二第一項に規定された特別土地保有税の納税義務の免除認定を受けるべく、法六〇三条の二第二項、条例一〇八条の一四の二第二項に基づき、申請土地につき免除認定の申請をした。
4 昭和六三年度分特別土地保有税の基準日である同年一月一日の時点において、申請土地の一部は、六棟の建物の全部又は一部の敷地として利用されており、その余の二九〇・〇八平方メートルの部分(以下、「本件土地」という。)については、その土地上に昭和五九年二月二一日に焼損した第一みなみビルの残骸が放置されており、同ビルの便所のみが現に使用されている状況にあった。
5 被告は、原告の右免除認定の申請に対して、札幌市特別土地保有税審議会の議を経た上、昭和六三年七月二九日、申請土地のうち、本件土地を除く部分のみにつき納税義務の免除を承認し、本件土地については納税義務の免除認定をしない旨の決定(以下、「本件否認処分(一)」という。)をし、その旨原告に通知した。
6 原告は、右処分を不服として、同年九月二四日、札幌市長に対し、審査請求を申し立てたが、札幌市長は、平成元年二月二五日、右審査請求を棄却する旨の裁決を行い、右裁決書謄本は、同年三月二日、原告に送達された。
(平成二年行ウ第一三号事件)
1 原告は、昭和六四年一月一日の時点において、札幌市中央区の区域内において本件土地を含む計三六三八・五三平方メートルの土地を所有していたため、前記規定により平成元年度の特別土地保有税の納税義務者となった。
2 原告は、平成元年五月三一日、被告に対し、平成元年度分の特別土地保有税の申告をするとともに、前記規定に基づき本件土地につき特別土地保有税の免除認定の申請をした。
3 平成元年度分特別土地保有税の基準日である昭和六四年一月一日の時点において、本件土地には右第一みなみビルの残骸が放置されているだけの状況にあった。
4 被告は、原告の右免除認定の申請に対して、札幌市特別土地保有税審議会の議を経た上、同年八月三日、本件土地につき、納税義務の免除認定をしない旨の決定(以下、「本件否認処分(二)」という。)をし、その旨原告に通知した。
5 原告は、右処分を不服として、同年九月三〇日、札幌市長に対し、審査請求を申し立てたが、札幌市長は、平成二年三月二八日、右審査請求を棄却する旨の裁決を行い、右裁決書謄本は、同年四月九日、原告に送達された。
二 原告の主張
1 本件土地の前主訴外武智哲夫は、訴外みなみ商事株式会社(以下、「みなみ商事」という。)に対し本件土地を賃貸し、みなみ商事は、本件土地上に建物(第一みなみビル)を建築し所有していたが、昭和五九年二月二一日、同ビルは火災により焼損した。そこで、みなみ商事は、本件土地の賃借権を保全するため、昭和五九年四月一七日、申請土地のうち二番八の土地について、右武智を債務者として処分禁止の仮処分決定を得、さらに同年一一月右武智を被申立人として札幌地方裁判所に本件土地についての借地契約を堅固な建物所有目的に変更することを求めて借地条件変更の申立て(昭和五九年借チ第八号)をし、同事件は現在も係属中である。その後さらに、みなみ商事は、昭和六〇年三月七日、右武智を債務者として、申請土地のうち一番一六の土地についても、処分禁止の仮処分決定を得た。
特別土地保有税は、土地の投機的取引を抑制し、あわせて土地の供給を促進することを目的に創設された制度であり、法六〇三条の二第一項に該当する土地については、すでに社会通念上相当程度の利用がなされているものとして、納税義務が免除されているのである。このような特別土地保有税及びその納税義務免除の制度趣旨に鑑みれば、土地の供給促進という目的が実現されている限り、当該土地は、納税義務免除の対象になるというべきである。そして、同項一号によれば、納税義務免除の対象となる土地として、建物又は構築物の「敷地の用に供する土地」とのみ規定されていることを考えれば、必ずしも、基準日に建物又は構築物が現存することまでをも要しないと解すべきなのである。
これを本件土地についてみれば、前記のとおり、現在も右武智或いは原告とみなみ商事の間に従前の借地契約が存続しており(なお、原告とみなみ商事との間では、前記仮処分により、原告の所有権取得をみなみ商事に対抗できない関係にある。)、第一みなみビルは、右焼損前はテナントビルとして利用されており、また、右非訴訟事件が係属中のため現在は関係者間において建物建築が不可能であるが、いったんこれが解決されれば、堅固なテナントビルが建築されることが確実なのである。これらの事情を考慮すれば、本件土地は、仮設でない建物の敷地の用に供する土地であり、また、その利用が一時的でなく相当の期間にわたるといえ、したがって、法六〇三条の二第一項一号及び地方税法施行令(以下、施行令という。)五四条の四七第一項に規定された納税義務免除の対象となる土地に該たるというべきである。また、仮に、本件土地が同条項に直接該当しないとしても、前記諸事情に鑑みれば、特別土地保有税の前記目的及び租税公平負担の原則に照らし、同条項が準用ないし類推適用されるべきである。
2 また、仮に右1の主張が認められないとしても、右非訟事件が確定するまでは、本件土地の現在の利用状況を変更することは不可能であるから、原告については、法六〇五条の二に基づき、天災地変その他特別の事情がある場合において特別土地保有税の減免を必要とすると認める者その他特別の事情がある者として、特別土地保有税を免除すべきである。
3 以上のとおり、本件各処分は、法六〇三条の二、六〇五条の二に違反し、違法であるから、その取消を免れない。
三 被告の主張
1 法六〇三条の二は、社会通念上相当程度の利用がなされ、最終的な需要に供されていると認められるような土地についてまで特別土地保有税を課するのは相当でないという考慮から制定されたものであるところ、具体的な土地について、それが最終的な需要に供されているものであるかを判定することは相当に困難を伴うから、同条一項一号は、構造・利用状況等が政令(施行令五四条の四七)で定める基準に適合した建物が基準日に存在するか否かという客観的、外形的基準により、特別土地保有税の免除の対象となる土地を決することとしたのである。したがって、ある土地が納税義務免除の対象となるか否かの判断にあたっては、右客観的、外形的基準のみによるべきであり、当該土地の従前の利用状況や基準日以後に建物が建築される予定があること等は、考慮されるべきではない。
2 法六〇五条の二に基づく条例一〇八条の一四の六及び札幌市税規則(以下、「市税規則」という。)四三条の三の二によると、特別土地保有税の減免をうけようとする者は、区長がやをを得ないと認めた場合を除き、納期限までに減免申請書に減免をうけようとする事由を証明すべき書類を添付して、区長に提出しなければならないと規定されているところ、本件においては、原告は、減免申請書を納期限までに被告に提出していないし、また、提出していないことにつきやむを得ないと認められる事情は何も窺えないのであるから、その主張にかかる「特別の事情」の有無を判断するまでもなく、原告の法六〇五条の二に基づく主張は失当である。
3 法六〇五条の二は、既に取得されその所有権を有していた土地が災害等によりその価値が下落した場合や土地が公益のため直接専用されているようなとき、法五八六条に規定する非課税措置との均衡上課税することが不合理である場合等の特別な事情がある場合に、条例により必要に応じて特別土地保有税を減免できることとしたものである。
本件においては、原告は、借地条件変更の非訟事件の係属後、その事情を承知して本件土地を購入したのであり、また、右非訟事件は私人間の紛争であって、右非課税措置との均衡上課税することが不合理な場合には該たらないから、減免の対象となる特別事情は存しない。
四 被告の主張に対する原告の反論
市税規則に、納期限までに減免申請書を提出しなければならないと定めてあったとしても、その違反の効果として、法六〇五条の二の減免を得る機会が失われるものではない。
仮に、右と異なる見解をとったとしても、原告は、昭和六三年五月末及び平成元年五月末に法六〇三条の二に関する免除申請書を提出しており、この申請は、法六〇五条の二の減免申請も含むと解される。
仮にそうでないとしても、納期限(昭和六三年五月末及び平成元年五月末)当時、原告は、法六〇三条の二に関する免除認定が受けられると信じていたから、減免申請書の不提出につきやむを得ない事情がある。
第三 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるからこれを引用する。
第四 争点に対する判断
一 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
訴外みなみ商事は、訴外武智哲夫から本件土地を借りうけ、本件土地上に建物(第一みなみビル)を建築し所有していたところ、第一みなみビルの焼損後、本件土地の賃借権を保全するため、申請土地のうち、二番八の土地については、昭和五九年四月一七日に、一番一六の土地については、昭和六〇年三月七日に、それぞれ右武智を債務者とする処分禁止の仮処分決定を得、昭和五九年一一月に右武智を被申立人として札幌地方裁判所に本件土地についての借地契約を堅固な建物所有目的に変更することを求めて借地条件変更の申立て(昭和五九年借チ第八号)をし、同事件は現在係属中である。
二 法六〇三条の二第一項一号の適用について
1 特別土地保有税制度は、土地の投機的取得を抑制し併せて土地の供給促進を図ることを目的としたものであるところ、すでに社会通念上相当な利用がなされている土地については右目的が達せられているといえるから、特別土地保有税を課す必要性はなく、このことが法六〇三条の二第一項一号によって特別土地保有税が免除された所以である、しかしながら、他方においては、具体的な土地につきその社会的な有効利用の程度をあらゆる場合に客観的に認定することは困難であり、課税を公平かつ公正に行い、投機的に取得され留保されているような土地が免除の対象にまぎれこむことを防ぐためには、免除の対象を客観的、外形的に決するのが適当であると考えられる。法六〇三条の二第一項が、市町村長の認定をまってとくに免除することとし、同項、同条第七項、五八六条四項が、基準日における現況として一定の要件を満たす建物の存在を要求していることは、むしろ、課税の公平さ公正さ及び土地の投機的取引の可及的防止の点を考慮し、免除の対象となる土地はあくまで客観的、外形的に決し、客観的、外形的に法に定める要件(基準日における法六〇三条の二第一項及び施行令五四条の四七第一項の要件を満たす建物の存在)を満たさない土地についてはこれを免除の対象としないことを宣明したものと解するのが相当である。したがって、法六〇三条の二第一項一号の土地に該たるというためには、当該土地に、基準日において、同条項及びこれをうけた施行令五四条の四七第一項一号に該たる建物及び構築物が現に存在することを要すると解される。
甲第一〇号証の一によれば、本件土地上に存した第一みなみビルは昭和六二年一〇月及び一一月の時点で、残っているのが二階の軸部と一階部分のみで、二階の軸部は過半が崩れ落ちており、一階内部は上部から崩れ落ちた焼失残骸で半分近くが埋まっている状態であることが認められる。そして、その後右建物に修補等を加えたことは証拠上認められないのであるから、昭和六三年一月一日及び昭和六四年一月一日の時点において、本件土地には、焼損した右ビルの残骸が放置されている状態であったといわなければならない。そして、土地供給の促進という特別土地保有税の制度の目的からすれば、法六〇三条の二第一項一号の「建物」とは、現実に利用に供され、あるいは少なくとも利用が可能な建造物を意味するものというべきところ、昭和六三年一月一日及び昭和六四年一月一日の時点において、右ビルがそのような状態になかったことは明らかであるから、本件土地が同号一の要件を満たすとすることはできない。(前記第一みなみビル一階の便所が使用されているとの事実は、右判断の妨げにならない。)
なお、原告は、法六〇三条の二第一項一号の「用に供する」との文言は現に用に供していることのみを意味するのではないと主張するが、右文言を素直に読み、かつ、同条第七項及び法五八六条四項に、法六〇三条の二第一項の土地に該たるかは法五九九条一項の規定により特別土地保有税を申告納付すべき日の属する年の一月一日(基準日)の現況によるものとしていることに鑑みれば、右文言は現に用に供していることのみを意味すると解するほかない。
2 さらに、原告は、法六〇三条の二第一項一号を直接適用することは無理でも、右ビルは焼損前テナントビルとして利用されており、借地条件変更の非訟事件の係属中は建物建築は不可能であるが、これが解決すれば本件土地に堅固な建物が建築されるのであるから、本件土地につき、特別土地保有税の目的である土地供給は実現されているといえ、したがって、同条項が準用ないし類推適用されるべきであると主張する。
しかしながら、前述の法六〇三条の二の趣旨からすれば、当該土地上に建物が存在しないのに、当該土地の過去の利用状況や将来の利用予定などを考慮して同条項を準用ないし類推適用する余地は全くないといわねばならない。
したがって、原告の右主張は採用しない。
三 法六〇五条の二の適用について
原告は、前記諸事情に照らし、本件土地においては昭和六三年度及び平成元年度の特別土地保有税の各基準日において建物等を建築することが不可能なのであるから、法六〇五条の二、条例一〇八条の一四の六にいう「天災その他の特別の事情」があり、特別土地保有税が減免されるべきであるから、本件否認処分(一)、(二)は違法であると主張する。
しかしながら、法六〇三条の二(条例一〇八条一四の二第一項)の免除を受けるための申請につき同第二項以下(条例一〇八条一四の二第二項以下)、市税規則四三条の三第九項で、法六〇五条の二の減免を受けるための申請につき市税規則四三条の三の二でそれぞれ別個に規定しており、しかも、後者の申請においては、同規則でとくに減免を受けようとする事由を証明すべき書類の添付が要求されるなどその手続きにも相違があること、不服申立手続もそれぞれ別個にしうるようになっていると解される(法一九条九号、地方税法施行規則一条の七第五項、第二〇号)こと、法六〇三条の二の免除制度は、昭和五三年に制定され、前記のとおり、社会通念上相当程度の利用がなされている土地について税を免除するものであるものに対し、法六〇五条の二の減免制度は、昭和五一年に制定され、天災等で当該土地の担税力が低下した場合に税を減免するものであって、その制度趣旨が異なるため、これら制度を適用するか否かを判断するにあたって考慮すべき要素も当然異なること等に鑑みれば、法六〇三条の二の免除を受けるための申請及びこれに対する処分と法六〇五条の二の減免を受けるための申請及びこれに対する処分はそれぞれ別個独立したものであり、一方の申請又は処分が他方の申請又は処分を包含するような関係にはたたないというべきである。そして、甲第一二号証によれば、本件否認処分(一)にかかる申請の免除認定申請書には、法六〇三条の二第一項の認定を受けるための申請であることが明記されていることが認められ、したがって、右申請はあくまで法第六〇三条の二による免除の申請といわなければならないし、本件否認処分(二)にかかる申請の理由として、法六〇五条の二が併記されていたことを認めるに足る証拠もないのであるから、右申請もまた、法六〇三条の二のみに基づくものとするほかない。そして、これらの申請を受理した被告としては、申請にかかる土地が法六〇三条の二第一項の要件を満たすか否かを判断して処分を行えば足り、それ以上に当該土地に法六〇五条の二に定める「天災その他特別の事情」があるかまで判断する必要はなく、仮にそのような事情があったとしても、右法六〇三条の二第一項に基づく申請に対する本件否認処分(一)、(二)が違法となるものでないことはいうまでもない。
右のとおり、本件各申請は、いずれも法六〇三条の二に基づくのであるから、仮に、原告主張のような事情があって、法六〇五条の二所定の減免の事由があったとしても、それは、本件否認処分(一)、(二)の違法事由とはならないというべきである。
したがって、法六〇五条の二違反を理由とする原告の主張は採用できない。
四 結論
以上によれば、原告の請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。